The Fang #6

SP 4回生 東輝衣

前回の内容


練習もしたことないのに、センターフォワード?そんな起用、普通じゃありえないのはサッカー素人の自分にだってわかる。けれど、やったことがあるとかないなんて、そんなこと、どうだってよかった。チームメイトの期待に応える場所に立てる喜び。それだけで十分。必ず結果は出ると自分を信じ切っていたらしい。



ピッチに入ってから1点を追加されて0-2。残り時間が15分に差し掛かったとき、出されたパスに合わせた彼のボレーシュートがゴールネットを揺らした。そしてそのまま1-2で敗退、彼の高校サッカーは幕を閉じた。




卒業間際に高校に訪れた大学アメリカンフットボール部の監督から「キッカーとして入部してほしい」という言葉をかけられた。実は、校庭をひたすら走っているとき、フットボール部顧問の木下先生からは、ときどき冗談交じりに声をかけられていた。「いつアメフト部くるの?」


誰かの期待に応える場所にもう一度立てる気がした。大学でもサッカー部に入って、プロになることを目指し続ける道もあったけれど、13年間続けたサッカーから離れて、全く触れたことのない楕円形のボールを蹴ることに決めた。



結果が全ての世界だ。右足1つで、チーム全員の期待を背負って、蹴る。その瞬間は、観客もサイドラインの選手もスマホの画面越しに試合を見ている人も、キッカーに注目する。私がフットボール部に入部して衝撃的だったメニューがある。チーム全員がキッカーを囲って、プレッシャーをかける中でフィールドゴールを蹴る練習。こんな中でボールを蹴るプレッシャーは私には想像もつかないけれど、彼にとってはプレッシャーよりも、成功した後のチームメイトの喜ぶ顔がみたい欲求のほうが強いような気がする。










6年連続で敗退に終わった2021シーズンの最終戦。負けてはしまったものの、前半終了間際、後半の追い上げにつながるフィールドゴールを決めた。それもキャリアハイの49ヤード。いつだって、必要とされるときに、必要な結果をだすんだ。


本番直前の練習では、ひどく調子を落としてチームメイトから怒声を浴びせられ続けていたことは、もう誰の記憶からも消えかかっていると思う。けれど、私は覚えている。どんなときだって、どんな舞台だって、逆境をチカラに変えていくのは、高校のグラウンドを黙々と走っていたときから変わらない。だって、みんなが喜ぶためだから。自分の苦しみなんて、その原動力でしかない。


誰かを喜ばすことをあきらめないで、よかった。

誰かの期待に応えることをあきらめきれなくて、本当によかった。




(了)